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サムライの国と鳥インフルエンザと少年犯罪

2004311

宇佐美

 

 浅田肇会長ご夫妻が自殺された「浅田農産」(兵庫県姫路市)に於ける『鳥インフルエンザ事件』で、私の心は大変動揺しています。

 

 事件発覚当初からマスコミは挙って、鳥インフルエンザに関する報告が遅れた浅田秀明社長を吊し上げていました。

 

 テレビでは、浅田社長の

“最初は腸炎だと思っていた……27日朝に京都府に届けるつもりだった”


などと苦し紛れの言い訳ともとられる発言を繰り返し流していました。

私はその都度テレビを消していました。

 

 何故って?

テレビに映る浅田社長の困惑した顔言葉が、まるで私自身のものに思えてしまったからでした。

私だって彼の立場だったら同じ事をしてしまった確率は、随分と高いだろうなあ!
(私は、常々、悪魔の囁きを私の耳元で聞いているものですから。

なにしろ、その鶏が大量死した農場の飼育数は19万羽と多いし、その兵庫の他、岡山、京都の3府県に計6カ所の養鶏場を経営、約175万羽も飼育していると云うのですから。

(先に判明した山口県の農場での飼育数は、約35千羽)

ですから“何とか腸炎であって欲しいし、また、腸炎でなくても腸炎として頬被りしてしまいたい!”と思ってしまうでしょう。

なにしろ山口県の場合は、昨年末の28日に最初の8羽の死亡を、最初は、腸炎、気管支炎などと疑い、鳥インフルエンザの仕業と判明する今年の112日まで、2週間ほど経過していたのですから。
(この経過は、文末の(補足:1)に掲載致します。)
ですから、内部告発されるまでは、何とか腸炎であって欲しいと私だって思い続けてしまったろうと思うのです。

 

 従って、次に掲げさせて頂く毎日新聞(2004228)の記事は、「私の思い」と「お役人根性」が見事に反映されていると思います。

 

 鳥インフルエンザ 早期通報の指導、都道府県に要請−−農水省

農林水産省は27日、全国の都道府県と関係団体に対し、鳥インフルエンザが疑われる事例があった場合はすぐ通報するよう、指導徹底を改めて要請した。京都府のケースで鶏が死に始めてから通報を受けた立ち入り検査まで約1週間もかかったため。ただ、同様の指導は1月19日にも要請したばかりで、「実効性確保には鶏、卵の移動制限で経営に打撃を受ける農家への配慮が必要だ」との指摘もある。

 「黙って隠せる病気でないし、早く届け出てくれればよかった」。27日会見した農水省の栗本まさ子・衛生管理課長はそう強調した。ウイルス発見が遅れるほど、まん延防止の対策が後手に回り、周辺に感染が拡大する恐れが強まるためだ。

 しかし、国の防疫マニュアルには半径30キロ以内の鶏、卵の移動制限に伴う農家への補償は明記されていない1月の山口県のケースでは卵の損失の半額を国が補償したが、こうした支援の恒久化なども焦点になりそうだ。

 

 通達だけ出しておいて、その通達を守らなかったからと云って、告訴だ告訴だと騒ぐのは、役人や政治家根性丸出しではありませんか!?

”鳥インフルエンザが疑われる事例があった場合はすぐ通報するよう”

との通達を出すと同時に、またはその前に、

「鳥インフルエンザであると判明した際には、十分な補償を行う」

旨のアナウンスをすべきではありませんか!?

 最近では大阪などでカラスが鳥インフルエンザで死んでいるとのニュースが流れますが、その発生源を全て浅田農産の農場に関連づけて居るようです。
おかしくはありませんか!?
 浅田農産の鶏は何故感染したのですか?
何故この感染ルートをマスコミは問題にしないのですか!?
浅田農産も被害者ではありませんか!?

 

 その上、“自殺したからと云って、我々に迷惑を掛けた罪が消える訳ではない!”との農場近辺の住民のコメントをテレビから垂れ流すマスコミ人の心を私は悲しく感じます。

 

 だったら、次のような記事(朝日新聞2003年8月9日)を、マスコミ人も、多くの方々もどう思われているのですか!?

(この件は、子供の犯罪に親の責任が問われるべきとの世論が、一時的に盛り上がっていたころの記事だったと思います。)

 

 「今度の事件はいつもと違う……」。そんな空気が会場を包んだ。

 東京都世田谷区で7月末、子どもの問題にかかわる市民グループの呼びかけで開かれた「長崎事件トークバトル」。長崎市で4歳の幼稚園児が殺害され、12歳の少年が補導された事件を約20人の大人たちが語り合った

多くの人が、「加害者の親になるかもしれない不安」を口にした

 「ひとごとではない、説明できない不安がある」と小学生の母。「遊び場も少なくゲームばかりしていて、育たないものがあるんじゃないか」

 小学生の父親は「うちの子も、いつ被害者になるか加害者になるかわからない。加害者になってしまったら、親としてどうしたらいいのか」。

 別の母親が、「きっと自分たちとそう違わない育て方をしたんだろうと思う。だから不安になる」と言うと、何人もがうなずいた。

 「わが子がもし、被害者になったらと思うと同時に、加害者になるかもしれない不安を親たちが感じていることが、今回の特徴だ」。元中学教諭で、教育研究所を開く尾木直樹さんは話す。……

 ある家裁のベテラン調査官は「子どもは良いことも悪いこともしながら成長する。事件の背景にはさまざまな要因があるが、親たちが不安になるのなら、そちらの方が手当てが必要ではないか」と指摘する。……

 

 この記事はおかしくはありませんか?

異常ではありませんか!?
異常ではないようなのです。
テレビの街頭インタビューでも世のお母さん方は同じように答えていたと記憶しています。

 

 鳥インフルエンザの件では、私達は絶対に浅田会長社長の様な加害者の立場に立つ事はありません。

ですから、加害者の浅田会長社長をいくらでも糾弾出来ます。

 

 しかし、子供の犯罪となると、いつ自分の子供が加害者の立場となってしまうかも判りません。

それを思うと、加害者の親を糾弾する事に躊躇します。

 

 と、云うのでしょうか?

 

 更に、家裁のベテラン調査官が“親たちが不安になるのなら、そちらの方が手当てが必要ではないか”と発言するに至っては、この日本は子供ばかりで、大人が居ないのかしら?と思ってしまいます。

 

 「加害者の親となる事を恐れている親」を子供が信用しますか?!

万が一にも、自分の子供が加害者となった場合には、どんな事をしてでも子供の責任を自分がとる!”という親の強い気持ち(我が子を思う気持ち)が子供に伝わって、子供が親を信頼するのではありませんか?

 

 子供の責任をとる事に怯えている親を、子供が信用するのでしょうか?!

 

 日本は本当に、「サムライの国」だったのでしょうか?!

 

 イラクへ派遣された自衛隊員は“サムライの国の人間として任務を遂行する”旨の発言をしていました。

でも、“私達はプロなんだから、命令が出れば何処へでも出掛ける”とも語っていました。

本当に彼等はサムライですか?

 

 浅田次郎氏(自衛隊OBであり作家)の日本ペンクラブの緊急集会で講演の要約が雑誌『週間金曜日(2004.2.27497号))』に掲載されていましたのでその一部を抜粋させて頂きます。

 

……

 そもそも、軍隊の本義って、何なんでしょう。軍隊というのは、自国の国民の生命と、自国の国民の平和な生活を守るために存在する武力です。これは日本国憲法に言われるまでもなく、軍隊というものの古今東西の本義であると私は思います。

 この本義というものを踏み越えた軍隊というのは、いかなる理由があれ誤っていると思います。それからその本義に照らし合わせてみれば、「国際貢献」も.「復興支援」も、実は軍隊としてはイレギュラーな活動であるということを、もう一度認識しなければいけないと思うんです。……

 私は自衛官でありましたが、まったくの反戦主義者であります。長い間、半世紀以上にもわたって、敵に向かって引き金を引いたことのない自衛隊というものに誇りを持っています。これからも、誇りは持ち続けるべきであります。それでこその、軍隊の本義であろうと思います。

 戦争をしてはいけないのは、当たり前なんです。軍隊を国の外に出しちゃいけないのは、当たり前のことなんです。これからも、反対していきましょう。

 

 自衛隊OBの浅田氏のこの発言を、イラクへ行かれた自衛隊員の方々はどう感じられるのでしょうか?

“どう感じようとも、命令だから何処へでも行く!”で良いのでしょうか?!

“おかしい!”と感じたら、どんな命令といえども異議を唱え、自らの信念を貫くのが、真のサムライではないのですか?

 

 評論家の岡崎久彦氏は、

“世界中何処の国でも、一度軍隊を派兵してしまったら、その派兵の是非を問う事は絶対やらない!
只、兵士達の安全を祈るのが世界の常識というものだ!”


と嘯いて、日本の世論への指針を与えています。

 

 命令が出たら何処へでも行き、多分命令とあれば、何でも実行する自衛隊。

そして、一度派遣を決定したら、是非を問うなと云う世論形成。

これでは、日本はサムライの国ではなく、軍事国家への道を突き進んで行く事になってしまいます。

 なにしろ、世の中には、自分の耳には悪魔がささやく事はなく、「神の声しか聞こえない」と信じ、また思い込み、はたまた、信じて居る振りをしている方々が大勢居るようですから。

 

 

(補足:1)

 山口県の鳥インフルエンザ 感染経過

 03年12月

 28日 8羽死亡

 29日 11羽死亡

 30日 32羽死亡、県中部家畜保健衛生所職員が立ち入り検査。消化不良、血便などを確認。細菌検査を実施

 31日 14羽死亡、同所はニューカッスル病と鶏伝染性気管支炎ではないと判断

 04年 1月

  1日 34羽死亡

  2日 51羽死亡

  3日 88羽死亡

  4日 71羽死亡、細菌検査の結果、大腸菌の関与疑う

  5日 233羽死亡

  6日 155羽死亡、大腸菌に対する治療開始

  7日 444羽死亡

  8日 419羽死亡

  9日 839羽死亡、発症鶏と正常鶏を鑑定、鳥インフルエンザに関する検査開始。全鶏舎の消毒を指示

 10日 1238羽死亡、検査結果判明、鶏卵の出荷自粛要請

 11日 2345羽死亡、動物衛生研究所に検査材料送付

 12日 高病原性鳥インフルエンザと断定

(補足:2)
 この拙文は、浅田秀明社長がテレビで言い訳を始められた時点から書かなければいけないと思い続けていたのですが、なかなか筆が進みませんでした。
でも、なつさんの夜更日記(石を投げる人々)を読ませて頂いて共感し、やはり一刻も早く書くべきだと思い直したのでした。


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